事例

29-14

旅宿 井筒安

築百数十年経過したこの旅館は、今までにない使われ方を提供できる「旅宿」としての新しい歴史を得た。構造体としての梁・柱、さらに既存の壁も動線に干渉しない限りできるだけ残した。百年以上を経た床板の床鳴りも、耳に楽しいBGMとして取らえほとんどを残した。

新しく挿入したのは、外部から訪れた客が食事に利用する空間だ。この食事の空間は、正面の壁に付けたナグリの1枚の厚板が場の存在感を増す。この板は間接照明の役割を担うと同時に木の持つ暖かさを感じさせ、チョウナをつかい人の手で削られたウロコ模様が、食事する人に不思議な安らぎを与えてくれる。客と亭主の間を何も遮るモノはないが、厚手のタモカウンターが無意識の境界を造っている。背面には、百年以上使われた柱と床。天井は廊下とつながり、空間の対比は新たな時間の出発を意識させるものだ。

もうひとつ挿入された新たな空間は、元浴室だった場所に設けられたライブラリーだ。ここは宿泊客の憩いの場となる。歴史ある京の中庭に面したソファーに身を委ねれば、四季の移ろいを彩る庭が時間の流れを忘れさせる。

これら二つの新しい空間が挿入されることで、この建築が共に歴史を経てきた木の柱・梁・床・建具が、傷や焼けなどの「使い込まれた良さ」を再確認できるものとなった。それらは時間をリセットすることなく、継承される。また新しい木々は、今から新しい歴史を刻んでいくこととなる。

古民家再生

商業施設